Friday, September 29, 2006

リメイクとハリウッド

●今度、「ウィッカーマン」がリメイクされます。ニコラス・ケイジ主演で。この映画は73年製作のイギリスのカルトホラーです。スコットランドの群島(おそらくはアイラ島)に行方不明の少女を探しに言った警官が島の原始宗教(ケルト宗教)の祭事に巻き込まれる話です。「神々の深き欲望」や石原慎太郎の「秘祭」的なお話です。オリジナルの中では執拗にでてくるセックスが薄められているそうですが、そんな換骨奪胎してレイティングシステム避けてもしょーがねーじゃん!というのが率直な感想です。まあ、リメイクは日本公開されてませんのでなんともいえませんが。ワタクシオリジナルの大ファンなので、言わせていただきます。ちなみにオリジナルの脚本家はアンソニーシェーファー。「デストラップ」で有名な名脚本家です。
●アダム・サンドラー主演で「ロンゲスト・ヤード」が公開され、アメリカではヒットしました。こちらもオリジナルに潜むアメリカンニューシネマの持つ反体制が薄められ、単なるコメディになっている聞きました。オリジナルのもつよさを消して、誤解されていくのが悲しい。オリジナルは硬骨漢・ロバート・アルドリッチが演出し、バート・レイノルズが主演でした。傑作です。
●カルトホラーで有名なウェス・クレイブンの「サランドラ」がリメイクされました。公開もDVDもないのでなんともいえませんが、オリジナルのもつ哲学性や科学批判は消されているでしょう。最近、オリジナルのDVDBOXが発売されました。
●結局は当時あまりヒットしなかったカルト作品のプロットを焼直しして、そのよさを消してファストフード感覚で生産しているという感じですか。いかにもハリウッド・MBAスタッフが考えつきそうなビジネスモデルですな。「イルマーレ」「JUON」等、リメイクのサイクルは加速度的に早くなって来て、資本主義トラバター現象がショウビズでも起こってます。
●そういえば音楽の世界でも…人気バンド「ブラックアイドピーズ」の新曲はセルジオ・メンデスのカバーで本人も参加してました。早くねーか?「アウトキャスト」もあれはどう見てもローバート・ジョンソンじゃないですか!後、ラップのフュ―チャリング。スリーピーブラウンフューチャリング・ビッグ・ボーイアンドファレルって結局、誰がうたっとるねん!でもどっかでみたことあるぞ、このビジネスモデル!そーだつんくのハロプロだ!ごまっとうだのWなど、以下省略。
●GM、GEなど20世紀のアメリカの興隆を支えた製造業が危機的な情況を迎えてますが、もはやアメリカにはものづくりという概念がありません。全てはサンプリング、シュミレーション、フューチャリングになってます。それをグローバリゼーションというのでしょうね。日本はけしてまねしないように…
●蛸が自分の足を…というわけではありませんが一つのカルチャーが終焉に向かっているといえるのではないでしょうか。これとそっくりな現象が日本の民放の連ドラであるのは言を待ちませんね。「白い巨塔」「西遊記」「サインはV」「エースを狙え」今度は「セーラー服と機関銃」ですか!民放のドラマ部門も衰退期に突入しております。自己模倣にも節度が必要ですな。

イギリス時代のヒッチコック

●「三十九夜」★★★★
「北北西に進路をとれ」などの巻き込まれ型サスペンスの原型。原型において最高傑作。カナダ人の男がイギリスでスパイ事件に巻き込まれ、スコットランドを舞台に逃げまくる話。ラストの機密事項の保存のアイディアなど、今見ても新鮮かつ、品格がある。
●「バルカン超特急」★★★★
鉄道等、乗り物大好きヒッチコック。上記の三十九夜は移動型ジェットコースタードラマだが、こちらは密室型。こちらも実にうまい。ハリウッドはこういうのをリメークせーちゅーの!
●「疑惑の影」★★★★
これはアメリカ映画ですが…初期の最高傑作とえます。ニューヨークで殺人を犯した男が逃亡して姉の住むサンフランシスコに逃げてくるが、姪に疑惑を持たれ…というお話ですが、サスペンスの教科書といえます。こっちも誰かリメイクせい!

Wednesday, September 27, 2006

映画千夜千本②

●最近観た旧作について…
●「踊る大紐育」★★★★
フランク・シナトラの歌とフレッド・アステアの踊りが売り物のミュージカル映画。海兵隊が一日だけのNY寄港をきっかけの恋物語。最近、ハリウッドではリメイクが多いが、アダム・サンドラーのロンゲストヤードや、そこの浅いウィッカーマンなんか観てもしょうがない。どうせやるならハリウッドの黄金時代につくられた本作のリメイクを見たい。配役はジェイミー・フォックス、ビンス・ボーン、クリス・エバンスでどーよ?
●「バリー・リンドン」★★★★
スタンリー・キューブリックのコスチュームプレイ。トルストイの作品に類似していると誰かが言ってましたが、その意味は大河ロマンではなくて、そこに全てが正確に過不足無く、精緻に表現されつくされているからだそうです。この映画はヒットせず、ユニバーサルから全権委任されていたキューブリックはヒット狙いでシャイニングをつくることになりますが、ある意味、キューブリックの最高傑作かもしれません。ニュースタンダードの傑作でしょう。
●「市民ケーン」★★★★
アメリカ映画史上の最高傑作として呼び声の高い同作を再見しました。当時のメディア王・ハーストの生涯を描いた同作はアメリカの成長期における典型的なアメリカ人を描いた映画といえる。子供の頃のトラウマにこだわりを示すラストシーンまで、まさにアメリカ人を描いた作品として、再評価したい。
●ミスターインクレディブル」★★★☆☆☆
ディズニーが史上最大の買収劇で話題のCGプロダクション・ピクサーの出世作。元正義のヒーローが家族の支えを得て、復活するドラマ。アニメーションは家族で行くケースが多いだろうが、この映画のよさは親も楽しめるところにある。大人が観ても子供が観ても楽しめる傑作。宮崎アニメとは違う意味で素晴らしい技術をもっている。

映画千夜千本

●最近観た映画のコメントをまとめて
●「ホテルルワンダ」★★★★
傑作です。90年代に国際問題になったアメリカのルワンダ内戦時に起こった実話の映画化です。ホテルの雇われ支配人であるドン・チードルが行きがかりで大量の難民を保護・救う話です。当時、対立していたツチ族のチードル。しかし、奥さんは虐殺されるフツ族。その葛藤に巻き込まれながらも、家族を守る愛を描いてます。この映画はぜひ、日本人に観て欲しい。日本人には小沢民主党首相のような国連幻想をもった人が多いが、国連がいかに無力なのかをこの映画は描いている。いや、そもそも国連なんて誤訳を打つから誤解を招くのでUNITED NATIONS=連合国(中国ではこれ)と訳すべきである。そもそもツチとフツの分類も部族的なことではなく、宗主国のベルギーが頭のサイズから便宜的に分けた植民地帝国主義の一環から生まれたものであった。
●「ノーマンズ・ランド」★★★★
こちらは97年製作の旧作だが、「ルワンダ」と合わせてみて欲しい。こちらはユーゴ内戦で緩衝地帯に居合わせたセルビア人とボスニア人の葛藤劇だが、こちらでも国連の存在が滑稽に描かれている。この映画はセルビアーモンテネグロ製作なので、かなり悪意をもって描かれているが、我々が盲信している国連の実態が描かれている。実際、戦後、国連が国際紛争を解決した例は一例も無い現実と合わせてこちらも必見である。
●「アメリカ、家族のある風景」★★★☆☆☆
ドイツの巨匠・ヴィム・ベンダースの新作。本人曰く、「僕の最高傑作」だそうだが、かつての難解な詩やアフォリズムをコラージュした作風とは変わって肩の力の抜けた、しかもベンダースのモチーフやテーマがより明快になった佳作だ。主人公のサム・シェパードはかつての西部劇のスター。撮影中に現場を脱走し、近くの実家に逃亡する。そこで昔の女に自分の息子がいることが分かり、会いに行く。そこはかつての大ヒット作のロケ現場で知り合った女の住む町。女はジェシカ・ラング。しかし、息子はサムのことを受け入れない。そこにサムの娘を名乗る母親の骨壷を抱えた女が登場し、錯綜する。この舞台になるのはアメリカの南部辺りの田舎町という設定だが、50年代で時間が止まっている。いかにもベンダース好みのアメリカの古きよき夢の町を再現している(設定はあくまでも現代なのだが)。やがて喧嘩を経て、家族と和解し、シンジケートのティム・ロスに連れられて現場に連れ戻されるサム。ベンダースが執拗に描く華族の崩壊と再生がみずみずしいタッチで描かれている。ただ、あまりのもベンダース哲学が明瞭になった分、実は通俗性が高い作家であることがばれてしまった作品でもある。
●「ヒストリーオブバイオレンス」★★★☆☆☆
もう一つ巨匠が家族愛を描いた佳作を紹介する。ホラー映画の巨匠デビッド・クローネンバーグの新作はなんと日本の仁侠映画だった。元々はアメリカンコミック(性格にはビジュアルノベル)が原作。アメリカの田舎町に住むヴィゴ・モーテンセンはダイナーを経営する。弁護士の妻と連れ子の家族を持つ。ある日、ダイナーに侵入した強盗を射殺したきっかけでマスコミに取り上げられ、捨てたはずの過去と退治することになる。実はヴィゴはフィラデルフィアのギャングで殺人のスペシャリストだ。恨みを持つボス(エド・ハリス)を射殺し、実兄であるボス(ウィリアム・ハート)と対決し、全ての過去と決別したヴィゴは帰途に着く。その時、家族は…というストーリーだが、暴力の後の夫婦がセックスに燃えるシーンや、義理の息子が暴力に染まっていく時のヴィゴのやりきれなさや、暴力表現を生涯のテーマにしているクローネンバーグらしい描写が満載で面白い。ただし、やっぱりこれは東映任侠映画の焼き直しである。
●「ヴェラ・ドレイク」★★★☆☆☆
こちらはイギリスの名匠・マイク・リーのこれまた家族愛のドラマ。世界的に流行ってるのだろうか。こちらは50年代のロンドンが舞台。善意で未婚女性の堕胎手術をしていた平凡な家庭の主婦が娘の結婚式当日に警察に発覚し、家族が苦悶するお話。こちらは実話がベースになっている。マイク・リーの抑制したリアルな演出はドラマを静かに盛り上げる。
●「ランド・オブ・デッド」★★★☆☆☆
なんとあのジョージ・A・ロメロの新作ゾンビ。シリーズ第四作はゾンビと高級住宅街のエリート層、その中間に位置する貧民層の三層に住み分けるようになったアメリカが舞台。もちろんここにはロメロならではの現実のアメリカ社会に対する批評がある。そう、これは一部の富裕層とレッドネックの白人層と移民・カラードを含む貧困層を象徴させているのである。富裕層は貧困層に都市を防衛させ、貧困層はゾンビを残虐に殺す。富裕層のリーダーをヒッピーの象徴であるデニス・ホッパーが演じている。とにかくロメロ健在を感じさせる充実したゾンビ映画。この作品から入って家この作品も観て欲しい。
●「ノーディレクションホーム」★★★☆☆
ボブ・ディランがフォークからロックに移行する過渡期を本人のインタビューや掘り出し映像を交えてマーティン・スコシージが監督。アメリカの宝といえる詩人・ボブ・ディランの内面に迫る佳作。60年代のアメリカンポピュラーミュージックの記録としても貴重。
●「オープンウォーター」★★★
海に取り残されたダイバー夫婦の恐怖の一昼夜を描く。実話が基になっているのと、低予算なので、実際に鮫と共演する羽目になった俳優の迫真過ぎる演技でアメリカではスマッシュヒットした。ただ、日本人には鮫の恐怖が被害が少ないせいか、今一ピンと来ず、単なる学生映画に見えた。ただ、救いの無いラストシーンに至るまで退屈はしません。
●「隣人13号」★★★☆
井上三太原作の漫画の映画化。小学生の時に硫酸を顔に掛けられた男の復讐譚。主人公の少年を2人一役で演じる。普段の気弱な小栗旬と凶暴な復讐鬼・中村獅堂のダブルキャストがこの映画の見所。原作をうまく処理をしてまとまってはいるが、中村獅堂の怪演をどう解釈するかで評価が分かれる。ワタクシは過剰なだけで中身が薄いと思う。中村の演技はいつもそうだ。みえを切るが実存のない歌舞伎役者特有の演技プランが劇中で空回りしていた。
●「妖怪大戦争」★★★☆
水木しげる、荒又宏、京極夏彦の「怪」メンバーが協賛した妖怪映画。東映お化け映画のリメーク映画だが、監督は三池崇史。出演はトヨエツ、栗山千明、天才子役・神木龍之介。脇に宮迫、竹中直人…と、およそ考えつく限り最高の布陣で臨んでいる。かつてのお化け映画を現在のCG技術で取り直すのは興味深い試みであるし、作品自体、高い水準で妖怪を再現している。ただし残念ながら、脚本のできがよくない。登場人物が敵味方それなりの曰くがあり、相関関係がつくられているのだが、ただなぞっているだけでドラマツルギーとしては盛り上がりに欠ける。残念。でも、各妖怪のつくり込みは素晴らしく、さすがは「怪」メンバー監修だ。
●「セルラー」★★★★
「フォーンブース」スタッフが造ったケータイアクション第二弾。悪徳刑事の殺人現場をビデオに納めた家族の妻が誘拐監禁脅迫を受ける。演じるのはキム・ベイシンガー。物置に閉じ込められたキムは壊れた電話を修理して一回限りリダイヤルできない回線を繋ぐ。偶然繋がった相手はビーチでナンパ中のバカ学生。回線を切るとジエンドという情況設定の中、ドラマが高速に回転しだす。ドラマの要所要所にケータイの先端技術が活かされた脚本。すきの無い演出。キャストの好演など、傑作です。

Wednesday, September 06, 2006

塩野七生・「ローマ人の物語」ユリウス・カエサルまで

●東京都立日比谷高等学校、学習院大学文学部哲学科卒業。1963年からイタリアへ遊学し、1968年に帰国すると執筆を開始。雑誌『中央公論』掲載の『ルネサンスの女たち』で作家デビューをはたす。1970年には『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』で毎日出版文化賞を受賞。また同年から再びイタリアへ移り住み、現在もイタリアの古都・フィレンツェに在住。舞台をイタリア中心に限定し、古代から近世に至る歴史小説を多数執筆し続ける。 1983年には、菊池寛賞を受賞。1992年からは古代ローマを描く『ローマ人の物語』を年一冊のペースで執筆しており、完成は2006年を予定している。
●『ローマ人の物語』は、塩野七生の古代ローマに関する著作。1992年以降、年に1冊ずつ新潮社から刊行中の書き下ろし作品。2006年刊行予定の15作目で完結。日本の書店や図書館などでは歴史書として扱われていることもあるが、大半の研究者からはフィクションや根拠のない断定が許されるという意味合いにおいて小説として扱われている。誤った記述がある、著者の想像による断定が含まれる、ローマ史の定訳を用いていないなどの批判もあるものの、小説家である著者によって魅力的に描かれた古代の英雄達は多くの読者を獲得している。本シリーズはローマ史をよく知らぬ読者からそのままの歴史の記述として扱われているという問題を有するものの、ベストセラーとなった本シリーズが多くの日本人読者に古代ローマについて関心を抱かせたことは否定できない。1993年シリーズ1作目である『ローマ人の物語I ローマは一日にして成らず』で塩野七生は新潮学芸賞を受賞している。2002年から順次、新潮文庫から単行本1冊を2~3冊に分けて文庫化されている。

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各巻構成と内容
ローマ人の物語I ローマは一日にして成らず (1992年、新潮社)
王政ローマの建国からイタリア半島統一までを描く。
ハンニバル戦記 ローマ人の物語II
第1次~第3次ポエニ戦争を描く。名将大スキピオ対ハンニバル。
勝者の混迷 ローマ人の物語III
地中海の覇者となったローマの内乱の世紀。
ユリウス・カエサル ルビコン以前 ローマ人の物語IV
ユリウス・カエサルの偉業と魅力。
ユリウス・カエサル ルビコン以後 ローマ人の物語V
カエサルのルビコン川越えと暗殺、第二次三頭政治。
パクス・ロマーナ ローマ人の物語VI
ローマを帝政に移行させた初代皇帝アウグストゥスが、パクス・ロマーナの実現を進める過程。
悪名高き皇帝たち ローマ人の物語VII
ティベリウス、カリグラ、クラウディウス、ネロの4皇帝の功罪。
危機と克服 ローマ人の物語VIII
ユリウス・クラウディウス朝断絶後の帝国の混乱とフラウィウス朝の成立、ネルウァまで。
賢帝の世紀 ローマ人の物語IX
五賢帝のうちトライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウスの時代。
すべての道はローマに通ず ローマ人の物語X
ローマのインフラストラクチャーについて書き尽くした番外編。
終わりの始まり ローマ人の物語XI
哲人皇帝マルクス・アウレリウスと息子コンモドゥスの時代、その後の混乱。
迷走する帝国 ローマ人の物語XII
危機の三世紀。
最後の努力 ローマ人の物語XIII
ディオクレティアヌスとコンスタンティヌスの時代。
キリストの勝利 ローマ人の物語XIV
コンスタンティウス(2世)と背教者ユリアヌスの時代からテオドシウスの時代まで。
以上、ウィキペディアより抜粋
●とりあえず「ユリウスカエサル」まで読みました。政治・経済・文化・愛欲も含めた壮大な世界を圧倒的な変遷を経て1000年のローマ帝国史を描いた超大作。
●ヨーロッパの教養としてはスタンダードなローマ史をギボン以来、本格的に日本に紹介してくれた塩野イタリア文学の集大成といえる超大作。共和制・帝政・元老院・護民官・市民集会など、政治形態の見本市とも言え、必読書だ。
●塩野氏も指摘しているが、日本人のローマ観はハリウッド映画に刷り込まれた悪の帝国。ハリウッドメジャーがユダヤ人・キリスト教を基盤にしているから、こうなったという。日本人の教養基盤は戦前はヨーロッパにあったが、現在は多くをアメリカにおっているため、ローマ史観が定着し無かった。
●しかし、塩野氏によるとローマ人はゲルマンや、ケルトと違い、多神教で、農耕民族であり、室内の装飾は簡素を好み、食生活は魚と穀物が中心。温泉が大好き…と日本人そっくりなのである。戦争も組織戦に強く、日本人の政治家や、経営者は読むと参考になるはず。