Wednesday, September 27, 2006

映画千夜千本

●最近観た映画のコメントをまとめて
●「ホテルルワンダ」★★★★
傑作です。90年代に国際問題になったアメリカのルワンダ内戦時に起こった実話の映画化です。ホテルの雇われ支配人であるドン・チードルが行きがかりで大量の難民を保護・救う話です。当時、対立していたツチ族のチードル。しかし、奥さんは虐殺されるフツ族。その葛藤に巻き込まれながらも、家族を守る愛を描いてます。この映画はぜひ、日本人に観て欲しい。日本人には小沢民主党首相のような国連幻想をもった人が多いが、国連がいかに無力なのかをこの映画は描いている。いや、そもそも国連なんて誤訳を打つから誤解を招くのでUNITED NATIONS=連合国(中国ではこれ)と訳すべきである。そもそもツチとフツの分類も部族的なことではなく、宗主国のベルギーが頭のサイズから便宜的に分けた植民地帝国主義の一環から生まれたものであった。
●「ノーマンズ・ランド」★★★★
こちらは97年製作の旧作だが、「ルワンダ」と合わせてみて欲しい。こちらはユーゴ内戦で緩衝地帯に居合わせたセルビア人とボスニア人の葛藤劇だが、こちらでも国連の存在が滑稽に描かれている。この映画はセルビアーモンテネグロ製作なので、かなり悪意をもって描かれているが、我々が盲信している国連の実態が描かれている。実際、戦後、国連が国際紛争を解決した例は一例も無い現実と合わせてこちらも必見である。
●「アメリカ、家族のある風景」★★★☆☆☆
ドイツの巨匠・ヴィム・ベンダースの新作。本人曰く、「僕の最高傑作」だそうだが、かつての難解な詩やアフォリズムをコラージュした作風とは変わって肩の力の抜けた、しかもベンダースのモチーフやテーマがより明快になった佳作だ。主人公のサム・シェパードはかつての西部劇のスター。撮影中に現場を脱走し、近くの実家に逃亡する。そこで昔の女に自分の息子がいることが分かり、会いに行く。そこはかつての大ヒット作のロケ現場で知り合った女の住む町。女はジェシカ・ラング。しかし、息子はサムのことを受け入れない。そこにサムの娘を名乗る母親の骨壷を抱えた女が登場し、錯綜する。この舞台になるのはアメリカの南部辺りの田舎町という設定だが、50年代で時間が止まっている。いかにもベンダース好みのアメリカの古きよき夢の町を再現している(設定はあくまでも現代なのだが)。やがて喧嘩を経て、家族と和解し、シンジケートのティム・ロスに連れられて現場に連れ戻されるサム。ベンダースが執拗に描く華族の崩壊と再生がみずみずしいタッチで描かれている。ただ、あまりのもベンダース哲学が明瞭になった分、実は通俗性が高い作家であることがばれてしまった作品でもある。
●「ヒストリーオブバイオレンス」★★★☆☆☆
もう一つ巨匠が家族愛を描いた佳作を紹介する。ホラー映画の巨匠デビッド・クローネンバーグの新作はなんと日本の仁侠映画だった。元々はアメリカンコミック(性格にはビジュアルノベル)が原作。アメリカの田舎町に住むヴィゴ・モーテンセンはダイナーを経営する。弁護士の妻と連れ子の家族を持つ。ある日、ダイナーに侵入した強盗を射殺したきっかけでマスコミに取り上げられ、捨てたはずの過去と退治することになる。実はヴィゴはフィラデルフィアのギャングで殺人のスペシャリストだ。恨みを持つボス(エド・ハリス)を射殺し、実兄であるボス(ウィリアム・ハート)と対決し、全ての過去と決別したヴィゴは帰途に着く。その時、家族は…というストーリーだが、暴力の後の夫婦がセックスに燃えるシーンや、義理の息子が暴力に染まっていく時のヴィゴのやりきれなさや、暴力表現を生涯のテーマにしているクローネンバーグらしい描写が満載で面白い。ただし、やっぱりこれは東映任侠映画の焼き直しである。
●「ヴェラ・ドレイク」★★★☆☆☆
こちらはイギリスの名匠・マイク・リーのこれまた家族愛のドラマ。世界的に流行ってるのだろうか。こちらは50年代のロンドンが舞台。善意で未婚女性の堕胎手術をしていた平凡な家庭の主婦が娘の結婚式当日に警察に発覚し、家族が苦悶するお話。こちらは実話がベースになっている。マイク・リーの抑制したリアルな演出はドラマを静かに盛り上げる。
●「ランド・オブ・デッド」★★★☆☆☆
なんとあのジョージ・A・ロメロの新作ゾンビ。シリーズ第四作はゾンビと高級住宅街のエリート層、その中間に位置する貧民層の三層に住み分けるようになったアメリカが舞台。もちろんここにはロメロならではの現実のアメリカ社会に対する批評がある。そう、これは一部の富裕層とレッドネックの白人層と移民・カラードを含む貧困層を象徴させているのである。富裕層は貧困層に都市を防衛させ、貧困層はゾンビを残虐に殺す。富裕層のリーダーをヒッピーの象徴であるデニス・ホッパーが演じている。とにかくロメロ健在を感じさせる充実したゾンビ映画。この作品から入って家この作品も観て欲しい。
●「ノーディレクションホーム」★★★☆☆
ボブ・ディランがフォークからロックに移行する過渡期を本人のインタビューや掘り出し映像を交えてマーティン・スコシージが監督。アメリカの宝といえる詩人・ボブ・ディランの内面に迫る佳作。60年代のアメリカンポピュラーミュージックの記録としても貴重。
●「オープンウォーター」★★★
海に取り残されたダイバー夫婦の恐怖の一昼夜を描く。実話が基になっているのと、低予算なので、実際に鮫と共演する羽目になった俳優の迫真過ぎる演技でアメリカではスマッシュヒットした。ただ、日本人には鮫の恐怖が被害が少ないせいか、今一ピンと来ず、単なる学生映画に見えた。ただ、救いの無いラストシーンに至るまで退屈はしません。
●「隣人13号」★★★☆
井上三太原作の漫画の映画化。小学生の時に硫酸を顔に掛けられた男の復讐譚。主人公の少年を2人一役で演じる。普段の気弱な小栗旬と凶暴な復讐鬼・中村獅堂のダブルキャストがこの映画の見所。原作をうまく処理をしてまとまってはいるが、中村獅堂の怪演をどう解釈するかで評価が分かれる。ワタクシは過剰なだけで中身が薄いと思う。中村の演技はいつもそうだ。みえを切るが実存のない歌舞伎役者特有の演技プランが劇中で空回りしていた。
●「妖怪大戦争」★★★☆
水木しげる、荒又宏、京極夏彦の「怪」メンバーが協賛した妖怪映画。東映お化け映画のリメーク映画だが、監督は三池崇史。出演はトヨエツ、栗山千明、天才子役・神木龍之介。脇に宮迫、竹中直人…と、およそ考えつく限り最高の布陣で臨んでいる。かつてのお化け映画を現在のCG技術で取り直すのは興味深い試みであるし、作品自体、高い水準で妖怪を再現している。ただし残念ながら、脚本のできがよくない。登場人物が敵味方それなりの曰くがあり、相関関係がつくられているのだが、ただなぞっているだけでドラマツルギーとしては盛り上がりに欠ける。残念。でも、各妖怪のつくり込みは素晴らしく、さすがは「怪」メンバー監修だ。
●「セルラー」★★★★
「フォーンブース」スタッフが造ったケータイアクション第二弾。悪徳刑事の殺人現場をビデオに納めた家族の妻が誘拐監禁脅迫を受ける。演じるのはキム・ベイシンガー。物置に閉じ込められたキムは壊れた電話を修理して一回限りリダイヤルできない回線を繋ぐ。偶然繋がった相手はビーチでナンパ中のバカ学生。回線を切るとジエンドという情況設定の中、ドラマが高速に回転しだす。ドラマの要所要所にケータイの先端技術が活かされた脚本。すきの無い演出。キャストの好演など、傑作です。

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